大阪地方裁判所岸和田支部 昭和55年(モ)256号 判決 1980年7月25日
債権者 昭南運送株式会社
右代表者代表取締役 赤松昌博
右訴訟代理人弁護士 金子武嗣
同 山下潔
債務者 中村修二
右訴訟代理人弁護士 山之内幸夫
同 宮崎浩二
主文
一、当裁判所が昭和五五年(ヨ)第八号債権仮差押申請事件について、昭和五五年一月二九日にした仮差押決定を認可する。
二、訴訟費用は債務者の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、債権者
主文第一項同旨
二、債務者
(一) 当裁判所が昭和五五年(ヨ)第八号債権仮差押申請事件について、昭和五五年一月二九日にした仮差押決定はこれを取消す。
債権者の本件仮差押命令の申請はこれを却下する。
訴訟費用は債権者の負担とする。
第二、当事者の主張
一、債権者の主張
(一) 債権者所有の大型貨物車(和88か一五七)は左のとおりの交通事故に遭遇した。
1、日時 昭和五四年四月二七日午前五時二五分
2、場所 和歌山市中五八三番地国道二六号線
3、概況 大阪方面より追越禁止区域である現場を和歌山市方面に南進し中央線をこえ対行車線を走行してきた債務者運転の普通乗用車(和55な四、七七九)に、債権者所有の右タンクローリー(大型貨物車)が衝突。
(二) 債務者は本件事故につき、左のとおりの過失がある。即ち、本件場所は追越し禁止区域であり、制限時速四〇キロメートルであるから、追越しをなしてはならず、四〇キロ以上のスピードで運転してはならない業務上の注意義務があるにも拘らず漫然追越しをなし対向車線を時速六〇キロメートルにて運転した過失がある。
(三) 債権者は本件交通事故により左のとおりの損害をうけた。
1、修理代金 六九万二、四一〇円
2、休業損害 四六万二、一四〇円
昭和五四年四月二七日より同年五月一六日まで二〇日分
(四) よって債権者は債務者に対し、金一一五万四、五五〇円の損害賠償請求権を有する。
(五) 債務者は現在無職であり収入は全くない。ただ、第三債務者である江口松彰が代理人となって請求した自賠責の保険金のみであり、保険金は昭和五五年一月二九日に第三債務者の口座に振込まれ、第三債務者の預り金として、金一四六万三、〇〇〇円がある。
この預り金が第三債務者より債務者に引渡されると債務者はすぐに費消するおそれがあり、債務者には他には全く資産はない。
(六) 以上の理由により債権者が債務者に対し有する前記債権の執行を保全するため、債務者から第三債務者に対する別紙目録記載の債権は仮りにこれを差押える第三債務者は債務者に対し差押えにかかる債務の支払いをしてはならない、との裁判を求め、仮差押申請をしたところ当裁判所はこれを認容したから、右仮差押決定の認可判決を求める。
二、債務者の主張
(一) 債務者は本件債権仮差押決定によって、第三債務者江口松彰に対して有する預り金返還請求権一四六万三、〇〇〇円のうち一一五万四、五五〇円の仮差押をうけた。
(二) しかしながら、債務者の有する右預り金返還請求権は、法律上差押の禁止されたもの(自賠法一八条)、ないしはその性質上差押の許されないものである。
(三) いずれにせよ、本件被仮差押債権は差押の許されないものであって債務者の責任財産を構成しない。
よって、申立の趣旨記載の裁判を求める。
三、債権者の反論
債務者は、本件仮差押がなされた預り金返還請求権は自賠法第一八条によって法律上差押が禁止されたものないしはその立法趣旨からみて差押の許されないものであると主張するが失当である。
第三、疎明《省略》
理由
一、《証拠省略》を総合すると債権者主張の(一)ないし(五)の事実が疎明され、反証はない。
二、本件の争点は被差押債権である第三債務者に対する預り金返還請求権が法律上差押の許されないものであるか否かである。
思うに自賠法一八条は、制度の社会保障的性格に基づいて交通事故の被害者等の保険会社に対する請求権について差押禁止を定めているが、その差押禁止の範囲は被害者等の保険会社に対する請求権そのものについてであり、その請求権の支払いにより得られた金銭についてまでも差押禁止は及ばないものと解するのが相当であり、本件の様に差押禁止請求権の目的物たる金銭が債務者の代理人である第三債務者に支払われた場合の右代理人に対する金銭引渡請求権も差押禁止の対象とならないものと解すべきである。
三、以上の次第であってみれば本件仮差押決定には何らこれを取消すべき事由はなく正当であるから認可し、民訴法八九条により主文のとおり判決する。
(裁判官 高橋文仲)
<以下省略>